過敏性腸症候群(IBS)とは
下痢や便秘、腹痛、腹部膨満感などの下腹部の不快な症状が継続的に起こる病気です。内視鏡検査などでも炎症や潰瘍などの病変が無く、構造や形態の器質的な疾患はありませんが、大腸の機能に問題が生じて症状を起こしています。 突然激しい腹痛が起こって下痢や便秘を繰り返すなど、通勤や通学、外出が困難になるケースもあります。仕事や学業に支障を及ぼし、クオリティ・オブ・ライフを著しく低下させることもあります。 20~40歳代に多くみられる傾向にあります。過敏性腸症候群には下痢型と便秘型、混合型があります。
過敏性腸症候群の原因について
はっきりとした原因はまだわかっていませんが、消化管に対するストレスがその一因となっているようです。
腸の機能は自律神経によってコントロールされているため、 環境の変化、生活習慣などのストレスによって症状が悪化することもよくあります。
また細菌やウイルス感染による急性の感染性腸炎をきっかけに過敏性腸症候群(IBS)を発症するケースがあることが最近報告されていおり、腸内環境とも密接な関係があるようです。
過敏性腸症候群の症状
下痢型、便秘型、下痢と便秘を繰り返す混合型の3つに大きく分けられます。他に分類不能型があり、その中には膨満感やおならの症状などが現れるタイプもあります。
下痢型
緊張などをきっかけに強い腹痛が起こり、トイレに駆け込むと下痢になります。排便後はしばらく症状がなくなります。大腸の蠕動運動が過剰となって便が水分を十分吸収されないまま運ばれてしまうため、軟便や下痢になります。
食事をすると、すぐに下痢をしてしまう方もいます。
急性腸炎等で下痢をする場合長期に及ぶことはありませんが、この疾患は下痢が長期に及ぶことが特徴です。
また長期に及ぶ下痢の場合潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患も考えられます。
便秘型
腸が痙攣性の緊張状態になって大腸の蠕動運動が減り、便が長時間大腸に停滞して水分がなくなります。兎の糞のようにコロコロした硬い便が特徴です。通常の便秘薬では排便できない方もいます。便秘型過敏性腸症候群用の薬が有効な場合があります。
混合型
下痢と便秘を数日ごとに交互に繰り返します。
分類不能型
膨満感、お腹が鳴る、不意におならが漏れるなど、下痢型・便秘型・混合型の3タイプには当てはまらない症状が現れます。
過敏性腸症候群の検査・診断
過敏性腸症候群と似たような症状が現れる病気には、細菌性・ウイルス性の腸炎、潰瘍性大腸炎・クローン病など炎症性消化器疾患、大腸がんなどがあります。そのため、こうした他の病気がないかをまずはしっかり調べます。行う検査は、血液検査、便検査、レントゲン検査、内視鏡検査などがあり、必要に応じて行っていきます。 他の病気がないことがわかったら、世界的な診断基準である「RomeⅣ基準」を用いることで診断できます。 最近3ヶ月間で、繰り返す腹痛が1週間に1回以上あって、その上で下記の2つ以上の症状が当てはまると医師が判断した場合、過敏性腸症候群と診断されます。
しかし、一番大切なのは丁寧な聴診、触診と十分な問診で、患者さんのストレス背景をよく理解することです。
RomeIIIの基準
最近3ヶ月間で、繰り返す腹痛が1週間に1回以上あって、その上で下記の2つ以上の症状が当てはまると医師が判断した場合、過敏性腸症候群と診断されます。
- 腹痛は排便することで解消する
- 排便の頻度が変化する
- 便形状が変化する
過敏性腸症候群の治療
つらい症状を緩和する薬物療法に加え、症状が起こる予兆を感じた時に服用して症状を軽減させる薬なども使っていきます。また、生活習慣の改善や習慣的に行う軽い運動も重要です。こうしたご指導も丁寧に行っています。
食事療法
炭水化物、脂肪分の多いもの、刺激が強い香辛料、アルコール、コーヒーなどの過剰摂取が症状のきっかけになることがありますので、きっかけになる飲食物を控えていただくこともあります。しかし、なにもかも控えようとするとストレスがたまって逆効果になることがあるので無理をしないことが重要です。 どのタイプでも食物繊維と水分はしっかりとってください。3食を毎日、ある程度決まった時間にとるように心がけてください。
運動療法
過敏性腸症候群にかかわらず、散歩程度の適度な運動を習慣的に行うことは腸の機能を整えるために重要です。運動はストレスの解消にもつながりますので、発症頻度を下げ、悪化を防ぐためにも役立ちます。
薬物療法
症状・状態・年齢・体調・ライフスタイルなどに合わせ、一人一人に合った処方を行いつらい症状を解消し、できるだけ快適に過ごせるようにしていきます。 便に含まれる水分量を調整する高分子重合体、腸にも存在する神経伝達物質をコントロールするセロトニン受容体拮抗薬、腸の働きを整える消化管運動調整薬、腸内環境を整える乳酸菌製剤、便秘型の便を出しやすくする緩下剤、強い下痢症状を抑制する止瀉薬、漢方薬、抗不安薬などをその人のお腹の動きや状態に合わせて適切に処方していきますので、同じ病名の方でも処方されるお薬は人によって千差万別です。