鼠径ヘルニアとは
鼠径は太ももと胴体の境目のことで、鼠径ヘルニアは腸などの臓器が本来の場所から鼠径部の皮膚下に飛び出してきている状態です。一般的には脱腸と呼ばれています。 代表的な症状には、鼠径部のふくらみや違和感で、長時間たっていた時や重いものを持ちお腹に力を入れた時に起こることが多いです。鼠径部のふくらみに気が付き、手で押したり、横になるとふくらみがなくなります。進行するとふくらみが手で押しても戻らなくなり、痛みを感じることもあります。腸閉塞や次項で説明する嵌頓によって腸の壊死を起こす可能性もあるため放置するのは危険です。 鼠径ヘルニアは手術でしか治すことができません。いつ腸閉塞や嵌頓が起こるのかはわかりませんし、日常生活にさまざまな支障を及ぼす可能性があるため、できるだけ早く受診するようにしてください。
放置が危険な嵌頓
鼠径ヘルニア(脱腸)は、がんなどのように生命を確実に縮める病気ではありませんが、放置すると緊急な手術が必要になる嵌頓を起こす可能性があります。嵌頓は、脱出した腸がもとに戻らなくなり、放置していると壊死を起こしてしまう状態です。強い痛みが起こるため救急を受診されることが多いのですが、そうなると開腹手術が必要になるケースもあります。鼠径ヘルニアがあれば必ず嵌頓を起こすわけではありませんが、起こる・起こらないの判断やいつ起こるかを予測することはできません。身体への負担が少なく日常生活にほとんど影響が出ない日帰り手術での治療をお勧めします。
鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアは、鼠径の胴体部分外側にできる外鼠径ヘルニア、それより身体の中心に近い部分にできる内鼠径ヘルニア、そして鼠径の足部分にできる大腿へルニアの3種類があります。
外鼠径ヘルニア
幼児と成人男性に発症するほとんどは外鼠径ヘルニアです。鼠径部の少し外側が膨らんできます。当院で鼠径ヘルニアの手術を受けられる方の過半数はこのタイプです。
内鼠径ヘルニア
内鼠径ヘルニアは鼠径三角という部分から臓器が飛び出すタイプで、中高年の男性に多く見られます。特に、中年以降に加齢や生活習慣の影響で組織が脆弱化し発症することが多いです。。
大腿ヘルニア
女性に多く見られる鼠径ヘルニアで、特に高齢で多産の方に多い傾向にあります。鼠径部の下の太ももが膨らみ、最も嵌頓を起こしやすいタイプなので、気づいたら早めに受診してください。
鼠径ヘルニアの原因
成人の鼠径ヘルニアの原因は、もともと腹壁の中で筋構造の脆弱な鼠径部に、加齢によって起こる筋肉の菲薄化により穴が空くことが原因です。特に男性では、鼠径部に胎生期に睾丸が通った場所があり、そこが弱いために腹圧が高くなる動作を行ったり、加齢で腹壁が弱くなることが原因となります。最近では、腹腔鏡の手術を受けられた後に、鼠径ヘルニアを発症することがあります。これは腹腔鏡手術でお腹の中にガスを入れ、腹圧をかけたところ、弱っている鼠径部に穴が空いてしまうと考えられます。なお、組織が脱出する部分は腹筋などの筋肉を鍛えても塞ぐことができない部分です。そのため、筋力をアップさせても鼠径ヘルニアを治すことはできません。 立ち仕事や腹圧がかかりやすい仕事をされている方、慢性的な便秘や咳なども発症のきっかけになります。
鼠径ヘルニアになりやすい人
- 40歳以上の男性
- 立ち仕事、力仕事をされている
- 喫煙している
- 慢性的な便秘
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 喘息、咳がよく出る
- 肥満
- 出産回数が多い女性
- 腹腔鏡手術を受けられた方